1.医原病解明の必要性

顎関節症の発症原因は歯科医師による医療過誤が原因なので、顎関節症は医原病です。
顎関節が偏位するとそこを起点として四方八方へとなだれ込むようにして全身の細胞のメカニズムを乱していきます。顎関節症は万病のもとです。
自然科学の論理なき医療行為は新たな病気の発症を招き、病因の解明をしないままに病巣を治療する行為は種々の新たな医原病の発症につながり患者を苦しめていきます。

2.三権の法解釈の誤りによる違法行為を国民が指摘する必要性

実親子関係に重大な影響を及ぼす出生届出や衆議院解散等、三権(国の統治権の立法権、司法権および行政権)の誤った判断や恣意的な法解釈による違法行為は、法治国家を否定する行為です。
国民は憲法や法律の規定、法令用語の常識を根拠にその誤りを指摘して、国民の力で法治国家を守り秩序ある社会にしていきましょう。

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9.元東京高検検事長黒川弘務氏に関する一連の法律違反について

黒川弘務氏の東京高検検事長勤務延長は法律違反なので無効です

黒川弘務氏の東京高検検事長の勤務延長を閣議決定した上で検察庁法改正を強硬しようとしたことに端を発して多くの人々が様々な意見を表明しました。
政治家、検察庁、法務省、人事院、内閣法制局及び黒川弘務氏の行為の違法性を憲法や法律の規定に基づいて検証していきたいと多いますが、この度の出来事は政治や行政の理不尽な企てに国民は声を上げていくことの必要性を痛感したのではないかと思います。

検証1:「退官」の意味について

百科事典『ウィキペディア』は次のように解説しています。

退官(たいかん)とは、官職を退くこと。以下に概説する。
退官とは官吏の職にある者が退職すること。おもに上級の国家公務員に用いられることが多い。かつては一般の公務員に対しても用いられる正式な法令上の用語であったが、現行の公務員法制の元では退職、辞職などといい下記の例外を除いて退官とは言わない。

現行法上、「退官」の用語が用いられている法令および該当する公務員は下記のとおり。
• 日本国憲法第79条第5項(最高裁判所裁判官)および同第80条第1項(下級裁判所裁判官)
o 上記に基づき規定されている裁判所法第50条(裁判官の定年)
検察庁法第22条(検察官の定年)
• 会計検査院法
o 第4条第3(国会による任命の事後承認が得られなかった検査官の当然退官)
o 第5条第3項(検査官の定年)
o 第6条(国会の議決による検査官の退官)
• 労働基準法第105条(労働基準監督官の守秘義務)
大学の教員も教官と通称・俗称されるため、国公立大学のみならず私立大学でも教員が退職することをしばしば退官ということがある。

出典:退官

法律用語は、「退官」と「退職」を明確に使い分けています。
以下で法律の規定を検証していくうえで重要なので覚えておいてください。

検察庁法第22条
検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。

検察庁法第32条の2
この法律第15条、第18条乃至第20条及び第22条乃至第25条の規定は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

国家公務員法附則第13条
一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第1条の精神に反するものであつてはならない。

国家公務員法第2条1項に「国家公務員の職は、これを一般職と特別職とに分つ。」、2項に「一般職は、特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を包含する。」、3項に「特別職は、次に掲げる職員の職とする。」としてその職を列挙しています。
検察官は国家公務員法に規定する特別職に該当しないため一般職になりますが、身分に関する規定については国家公務員法は適用されず、検察庁法第32条の2に列挙されている規定が適用されることになります。

検証2:検察官に勤務延長が認められない法律上の根拠

安倍内閣は1月31日に「検察庁の業務遂行上の必要性」を理由に、東京高検検事長黒川弘務氏(62)の勤務を半年延長することを閣議決定しました。
黒川弘務氏は63歳になる2020年2月8日午前零時に検察庁法第22条により必然的に検察官の資格を失って官職から退いたのに、ご本人は閣議決定を有効と考えたようで2月8日以降も引き続いて東京高検検事長の職務に就いていました。

黒川弘務氏の勤務延長の閣議決定は法律の規定に反しているので、閣議決定は無効です。
法律に基づいて何がどのように違反して無効なのか検証していきましょう。

1.政府は勤務延長の法的根拠は「定年を63歳に定める検察庁法に延長規定がないため国家公務員法の延長規定を適用」と答弁しました。

政府のあまりにも単純な法解釈にあきれ返ります。
このような解釈の仕方が容認されると他の様々な法解釈で「〇〇〇に関する規定がないからと理由をつけて自己に有利な主張を展開することができることになり、法秩序は破綻し社会は不安定になります。」

上記政府答弁に対し山尾志桜里議員は、1981年の国会で「検察庁法の退官(定年)の規定は例外的延長制度を置かない趣旨」の答弁があると指摘しました。

これに対し森まさこ法務大臣は2020年2月10日衆議院予算委員会「検察庁法で定められる検察官の定年の退職の特例は定年年齢と退職時期の2点であり、検察官の勤務延長については一般法たる国家公務員法の規定が適用するものと解している。」と答弁しました。

2.国家公務員法第81条の3第1項の定年後の勤務延長規定は、文理解釈上検察官に適用されません

森法務大臣が定年後の勤務延長適用に該当するとした規定は、国家公務員法第81条の3第1項を指しています。

第81条の3第1項は「定年後も引き続いて勤務させることのできる退職の特例」規定ですが、同条の適用を受けるのは「第81条2の第1項及び第2項」により定年年齢が60年の一般職及び2項の1号から3号までに該当する職員に限定されています。

第81条の3第1項を解釈する上でもう一つ付け加えると、上記『ウィキペディア』の説明から「退官」と「退職」は法律用語では明確に区別されていることを学びました。
第81条の3第1項は「退職」と規定しています。

したがって、国家公務員法第81条の3第1項は、検察官全員が対象外です。
森法務大臣は文理解釈ができない大臣ということになります。

次に各人の責任問題を検証していきましょう

検証3:黒川弘務元東京高検検事長について

法曹界の一翼を担う検察庁においてナンバー2の東京高検検事長が、退官後も退官せずに引き続いてその職務に就いていたことは前代未聞の青天霹靂ともいえる大事件です。

権限なくして「不法に東京高検検事長室に入室して職務を行ったこと、その間も俸給を得るなどの不当利得を得たこと」は建造物侵入罪の適用や不当利得返還請求を考えることが重要です。

法律上すでに官職から退いている者が「辞表を提出」したり、賭け麻雀していたことに対する「訓告」処分は論外です。「辞職」や「処分」適用は在職中の者に限られます。

東京地検の斎藤隆博次席検事は7月10日に臨時の記者会見をして、賭けマージャン等について不起訴処分にした理由を次のように述べました。
黒川検事長が検察幹部という身分だったことに触れ、一般人よりも処罰を重くすべきではないかとの国民感情は理解でき、重く受け止めている。ただ(処分は)法と証拠に基づき判断した。
賭けマージャンを認めており、地検は賭博罪は成立しうると判断した上で、検事長が辞職したことや新聞記者らが停職処分を受けたことなどを考慮し不起訴(起訴猶予)とした。地検は過去の判例と比較したうえで常習性は認められず、犯罪は成立しないと結論づけた。

「4、5月の計4回、金銭を賭けてマージャンをしたこと」が対象になっていることを考えると、私は不起訴処分でも良いと思いました。
なぜなら2月7日以前の検事長在職中の行動が対象になっているのではなく、検事長を法律上当然に退官し一般人になった以降の行動が対象になっているので掛け金が多額でなければ不起訴でも良いと思います。

問題にすべきなのは、「権限なくして不法に東京高検検事長室に入室して職務を行ったこと、その間も俸給を得るなどの不当利得を得たこと」です。

検証4:前稲田伸夫検事総長について

検察庁法第7条に「検事総長は、最高検察庁の長として、庁務を掌理し、且つ、すべての検察庁の職員を指揮監督する。」と規定されています。
検事総長は法曹界の一翼を担っている検察庁のトップとして、法律判断にはとりわけ厳しさが求められます。

定年延長に関しては、衆議院厚生労働委員会で安倍総理大臣の下記の発言により当時の稲田検事総長が勤務延長と訓告処分に関与していたことが明らかになりました。安倍首相の発言は次の通りです。

「処分に当たっては、検事総長が事案の内容等諸般の事情を考慮して適切に、適正に処分を行ったものと承知をしておりまして、それを受けて、昨日、私が了承したということでございます。黒川氏については、検察庁の業務遂行上の必要性に基づき、検察庁を所管する法務大臣からの閣議請議により閣議決定されるといった適正なプロセスを経て引き続き勤務させることとしたものであり、この勤務延長自体に問題はなかったものと考えております。黒川氏については、法務省において、先ほど答弁をさせていただいたように、確認した事実に基づき昨日必要な処分を行うとともに、本日、辞職を承認する閣議決定を行ったところであります。法務省、検察庁の人事案を最終的に内閣として認めたものであり、その責任については私にあるわけでございまして、御批判は真摯に受けとめたいと考えております。」

勤務延長が検察庁法第22条違反になることを稲田検事総長は判断できずに黒川弘務氏を定年退官後も東京高検検事長としての執務を続けさせていたことについて検事総長としての責任を問うべきと思います。

検証5:法務省について

定年延長の解釈変更の経緯

安倍総理大臣は、2月13日衆議院本会議検察官について昭和56年当時の解釈を変更したことを表明しました。

2月20日法務省と人事院は衆院予算委員会の理事会に文書を提出、その内容等は一宮なほみ人事院総裁が下記の通り答弁しています。

3月5日の参議院予算委員会2月26日衆院予算委員会審議での近藤正春内閣法制局長官及び一宮なほみ人事院総裁の答弁内容を含めると、閣議決定に至るまでの水面下の経緯は一覧にすると次のようになります。

日付 事   実
1/17 近藤正春内閣法制局長官は、法務省から1月17日ごろに「検察官は国家公務員法の定年延長の適用外」とする過去の政府見解に対し解釈変更の相談があり、勤務延長について了解の回答をした。
1/22 人事院は法務省から「検察官にも国家公務員法の規定が適用されると解するのが自然だ」との相談を受けた
1/24 人事院は「法務省の見解に対して、特に異論を申し上げない」とした
1/24 一宮なほみ人事院総裁は、解釈変更に関する法務省との協議文書について、法務省の辻裕教事務次官と人事院の森永耕造事務総長との間で直接確認されたと明らかにし、両幹部間で1月22~24日に文書がやりとりされ人事院は法務省の法解釈「検察官にも国家公務員法の規定が適用されると解するのが自然だ」を了とした。
1/31 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長を閣議決定
2/13 安倍首相が国家公務員法の解釈を変更したと表明

時系列で経過の流れをみると、1/17 から 1/24 までのプロセスは各行政機関が法解釈変更を水面下で合意し合い、それを受けて 1/31 の閣議決定に至ったことがわかります。
政府は、閣議決定の合法化を担保するために水面下の合意が必要だったのでしょう。

ところが山尾志桜里議員が、2/10の衆議院予算委員会で1981年当時の人事院幹部が検察官に国家公務員法の定年制は適用されないと国会答弁していたと指摘すると、2/13 に安倍首相は法解釈変更を表明し、それをフォローするように 2/20 、 2/26、 3/5 の文書提出や衆院予算委員会や参院予算委員会での一宮なほみ人事院総裁や近藤正春内閣法制局長官の答弁で 1/31 以前の水面下の事実を白日の下に明らかにして 2/13 の安倍首相表明の法解釈変更を正当化しました。

法解釈は法改正がない限り一貫性でなければならず、行政官や政治家が法解釈を好き勝手に変更してもそれは有効になり得ません。

辻裕教法務省事務次官の発言

上記記事によると2月19日開催の全国検事長・検事正が集まる「検察長官会同」で中部地方の検事正が「定年延長について国民に経緯を説明すべきだ」と意見したところ、進行役を務めていた法務省の辻裕教事務次官は、次のように答えたという。 「必要があったから延長した」

この発言は、法務省事務次官でありながら法解釈に基づいた説明ができず、「必要」、すなわち何らかの理由で勤務延長する必要があったと述べていることになります。

日本が法治国家でないことを法務省事務次官が自らの発言で証明しました。

法務省設置法第3条に法務省の任務 について規定されています。
法務省の任務の一つが法治主義の基盤である法秩序の維持ですが、事務方のトップである辻裕教事務次官の言動は法治主義に反する言動で、事務次官としての責任が問われなければなりません。

私は以前から中央省庁の発出文書について疑問に思っていたことがありました。それは発信欄に発信者名が記載されずに「〇〇課長」というように肩書だけになっていることでした。

下記の画像は、山中理司弁護士のブログに掲載されているものを使わせていただきますが、今回の勤務延長に関する法務省から総理大臣宛の発信文書です。

法務大臣発信文書 別紙

発信者が「法務大臣」になっていますが、肩書になる官位は文書発信人になり得るのでしょうか?
発信者には氏名の記載が必須で、官位である「法務大臣」を併記することにより、文書は〇〇が法務大臣の資格で発信したとなります。
宛先はどうでしょうか? 本件の場合は宛名人が1名で氏名もわかっているのですから氏名の記載が必要と思います。

文化庁 公用文の書き方資料集に掲載のひな形は下記の通りです。

発信文書ひな形

検証6:人事院について

人事院のホームページには次のように記載されています。
「公務員は、憲法で「全体の奉仕者」と定められ、職務の遂行に当たっては中立・公正性が強く求められます。このため、国家公務員法に基づき、人事行政に関する公正の確保及び国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる中立・第三者機関として、設けられたのが人事院です。」

2020年3月6日参議院予算委員会で福島みずほ議員は定年延長できる場合の規定について人事院に質問し、松尾恵美子給与局長は、人事院規則11―8第7条第1号から第3号までの該当事例を答弁し、それを受けて森法務大臣が黒川弘務東京高検検事長は第7条第3号に該当すると答弁しました。

人事院規則11-8は、国家公務員法第81条の2及び第81条の3に規定する職員の定年実施に関する規定で文理解釈上検察官に適用されないことはすでに上記で述べた通りで、黒川弘務東京高検検事長の勤務延長が7条3号に該当するとした森法務大臣の答弁は誤りになります。

ところで一宮なほみ人事院総裁は2020年2月27日の衆院予算委員会で次のように答弁しています。
赤字は人事院に照会があった場合の一般的な対応と今回の法務省からの照会に対する対応、
青字は法務省からの照会書面の内容

人事院は、日常の業務として、各府省等から、国家公務員法やその他の関係法令の解釈に関する意見照会を受けております。
これらの照会に対しましては、照会の内容を文書で照会を受けた場合には、その作成者、文書番号や公印の有無等を踏まえ、部内で了解を得る範囲、決裁の要否、口頭か文書かといった返答の方法を個別に判断しております。

今回法務省から示された文書への回答については、法務事務次官からいただいた書面に作成者の記載がなく、文書番号や公印も付されていなかったこと、法務省から示された検察庁法の解釈が従前の解釈と異なるものであったため、私とほかの二人の人事官、事務総局が一堂に会して検討を行った結果を一月二十四日に文書化したものであることから、手続としての決裁はとりませんでした。

議事録の関係に関しましては、法務省からいただいた意見照会に対する回答の方法としては、結論である、異論を申し上げないという部分のみを口頭又は文書でお伝えすることもあり得たところでございますが、今回の照会の性質上、経過を文書に残すべきと考えましたので、私の指示で、人事院の考え方を整理した文書を作成させました。
議事録を作成すべきという御指摘に関しましては、当日、私と二人の人事官、事務総局との間で、文書に記載しているとおり、検察官の定年制の適用関係に関する認識、法務省が示した勤務延長の規定の解釈に関する受けとめ、再任用の適用関係の各事項について認識の共有を図り、経過と結論を文書化しておりますので、改めて議事録を作成する必要はないと考えております。

出典:一宮なほみ人事院総裁の発言

法務省事務次官からの書面は他官庁に提出する書面としては体をなしていないばかりか検察庁法第15条により検事長の人事については人事院の関与は及ばないのに、総裁、二人の人事官、事務総局が協議までして法務省の法解釈変更を共有することにし、それをを内部文書にして残すことにしたのは文書の持参者が法務省事務次官だったからですか、それとも当事者間に法解釈変更を共有しなければならない特別な理由を感じ取ったからですか。

立憲民主党の川内博史議員は単なる文書ではなく議事録作成の必要性を主張していましたが、本件は議事録作成よりもそれ以前の勤務延長に関する法解釈の質問が重要で、人事院が法務省事務次官の要請を受け入れた法的根拠を法律の条文を一つづつ挙げて質問をし、人事院がそれらの条文をどのように解釈して法解釈変更を共有することにしたかを確認することが重要であったと思います。
質問する野党自身が関連する法律を理解していなければ質問も空疎に終始し、国民は国会審議に失望します。

検証7:近藤正春内閣法制局長官について

内閣法制局の所掌事務については、内閣法制局設置法第3条に規定されていますが、内閣法制局はホームページで「内閣法制局は法制的な面から内閣を直接補佐する機関として置かれており、内閣に付される法律案、法令案及び条約案の審査や法令の解釈などの任務に当たっています。」と述べています。
内閣法制局は、行政府内では「法の番人」と言われています。

「法の番人とは」
法秩序の維持を担う機関や人。警察・検察や司法機関である裁判所などを指す。
[補説]行政府内では、内閣法制局が政府の活動の法的妥当性を担保する役割を担うことから法の番人とされる。

出典:法の番人

近藤正春内閣法制局長官の答弁によると「法務省が現在の国家公務員法と検察庁法の関係についての解釈について新しい解釈を取りたいということで1月17日に相談があり、担当者も、前提が変わりましたので、いろんな審査の前提が変わりますので、その段階で私まできちっと上げて、一度了解をした上で新しい審査に入る必要があるということでそういう応接録を作り、私にも報告をし、私も了解の回答をしたということでございます。」と述べています。

内閣法制局設置法第3条3項に「法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること」とあります。
現行法の法解釈を従来と真逆の解釈に変更するということは重大事であるのに、近藤正春内閣法制局長官は法務大臣に対して直接ではなく、間接的に法務省に法解釈変更を了解した旨の回答したことは問題です。

検察庁法改正案の内容も含めて今回の出来事からわかったことは、内閣法制局は内閣の意向に沿うようにする一面があることや時と場合によっては恣意的人事が起こりかねないような文言を規定に盛り込むことがあることを知り、国民は法案にも深く関心を持っていくことが必要と思いました。

検証8:菅官房長官について

政治家の責任についても検証しましょう。
菅官房長官は記者会見で、従来できなかった定年延長を可能にする法解釈変更を公表していなかった理由について、「国民生活への直接の影響の有無やその程度を総合的に勘案して判断されるもの」と指摘。その上で「今回の解釈変更のような人事制度にかかわる事柄については、必ずしも周知の必要はないと考えている」と述べて判断に問題はないとの認識を示しました。

法律は万民に対して法秩序の維持と社会の平等、安定のためにあり、そのため法解釈は条文に対して忠実に導いていくことが当然のルールです。
権力者が恣意的な法解釈をして違法な人事を行い、それを国民に周知しないことが認められると考える菅官房長官の認識は許されない行為です。

政府は従来の法解釈の内容を知っていてそのうえで水面下で法務省、人事院、内閣法制局から法解釈変更の合意を取り付けて1/31の黒川東京高検検事長の勤務延長を閣議決定しましたが、2/10 の山尾志桜里議員の質問に意表を突かれ、 2/13 安倍首相は解釈変更したことを急遽表明しました。

私はテレビでコメンテーターが検事長の勤務延長について「新法は旧法に優先するという法則があり、検察庁法は国家公務員法の勤務延長の法改正よりも以前であるので、検事長の勤務延長は………(後は言葉を濁されました)」との発言を聞き、疑問に思いました。

ネットで調べると「新法は旧法を破る」と「特別法は一般法に優先する」という法格言があることを知りました。
「新法は旧法を破る」の意味は、「新法で定められた内容と旧法で定められた内容で抵触する事項がある場合には新法が優先して適用され、新法で定めていない事項については旧法が適用される。」です。

「特別法は一般法に優先する」の意味は、「一般法と特別法とで法が異なった規律を定めている場合、特別法の適用を受ける事象は一般法の規律が排除され、特別法の規律が適用される。」です。

下記の2020年2月27付日本経済新聞社説でも同様の法格言に触れていました。

新法は旧法に優先する

私は、法律を調べるときは現行法を基準にし、改正があった個所については「附則」に記載されている施行日で判断することになるので、法解釈において新法、旧法のどちらを適用するかで混乱が起こることなど考えたこともありませんでした。

ちなみに今回問題になった国家公務員法の定年延長についての法改正は、法律第77号によって国家公務員法に新たに「定年」の規定が追加になり、国家公務員法には、附則に改正になった規定の施行日、実施のための準備や経過措置が規定されました。

このように法改正があると改正後の規定の施行日等がその法律の附則に規定されますので、施行日から改正後の規定が適用になるのは誰もが理解できることで、「新法は旧法を破る」という法格言は法解釈するうえで考慮する必要がないのは明らかです。

「特別法は一般法に優先する」という格言もあるようなので、国家公務員法では「定年」についてどのように規定されているか再確認しましょう。
第81条の2に「職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、」と規定され、2項で「前項の定年は、年齢六十年とする。」と規定されていますので、法格言が念頭になくても一般職である検事は「検事総長は年齢が65年、検察官は63年に達した時に退官する」との規定が、「法律に別段の定めのある場合を除き」に該当するのは誰もが理解できることで、法格言は法解釈するうえで考慮する必要がないのは明らかです。

菅官房長官の発言は国民をないがしろにしているばかりでなく、現行法の文理解釈が全くできない自らの知識を国民に周知したも同然です。立法に携わる国会議員としての資格が問われるでしょう。

検証9:安倍総理大臣について

2020年2月13日に安倍総理大臣は次のように答弁しています。

検察官については、昭和五十六年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知しております。 他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。

出典:2月13日衆議院本会議

2020年5月22日衆議院厚生労働委員会で安倍総理大臣は次のように答弁しています。

まず、処分に当たっては、検事総長が事案の内容等諸般の事情を考慮して適切に、適正に処分を行ったものと承知をしておりまして、それを受けて、昨日、私が了承したということでございます。黒川氏については、検察庁の業務遂行上の必要性に基づき、検察庁を所管する法務大臣からの閣議請議により閣議決定されるといった適正なプロセスを経て引き続き勤務させることとしたものであり、この勤務延長自体に問題はなかったものと考えております。黒川氏については、法務省において、先ほど答弁をさせていただいたように、確認した事実に基づき昨日必要な処分を行うとともに、本日、辞職を承認する閣議決定を行ったところであります。法務省、検察庁の人事案を最終的に内閣として認めたものであり、その責任については私にあるわけでございまして、御批判は真摯に受けとめたいと考えております。

出典:2020年5月22日衆議院厚生労働委員会議事録

2月13日の答弁からわかること

安倍総理大臣は現行法の正しい解釈ができない総理大臣ということになります。

5月22日の答弁からわかること

安倍総理大臣は勤務延長について、「検察庁の業務遂行上の必要性に基づき、検察庁を所管する法務大臣からの閣議請議により閣議決定されるといった適正なプロセスを経て引き続き勤務させることとしたものであり、もちろんこれは脱法的なものではない」と答弁しています。

現行法の正しい解釈ができない状態で「法務大臣からの閣議請議」➡ 「閣議決定」というプロセスを踏んでいるから脱法的ではないという考え方は、単に決まりきった手続きのプロセスが順当であれば法律上問題ないという単純な考えを示していることになります。

手続きのプロセスに瑕疵があればそれはそれで問題になりますが、本件はそれ以前の請議のあった内容が法に反する違法な解釈をしていることが問題なのです。

安倍総理大臣は「法務省、検察庁の人事案を最終的に内閣として認めたものであり、その責任については私にあるわけでございまして、御批判は真摯に受けとめたいと考えております。」との答弁は、安倍総理大臣は自身の責任は人事案を単に認めたことと単純に考えているようですが、法律に反する人事を閣議決定したのですから安倍総理大臣一人の責任問題ではなく、内閣全員の責任問題になります。

立法府に携わる議員が現行法の正しい解釈ができないということは憂うべき事態で安倍総理大臣の資質が問われる問題だと思います。

国民は「主権在民」を自覚しましょう

国民の「主権在民」は憲法に規定されています。
憲法第15条は「公務員選定罷免権、公務員の本質、普通選挙の保障、秘密投票の保障」を、第16条は「請願権」を定めています。

第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

第16条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

令和元年度の人事院年次報告書の前文によると「公務員の種類」について次のように述べています。

公務員の種類と数
公務員の全体像を概観するために、一般職国家公務員のほか、特別職国家公務員や地方公務員を含む公務員全体の種類と数を示せば次のとおりである。

日本国憲法第15条は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」(第1項)とし、「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」(第2項)と定めている。ここにいう「公務員」とは、国会議員、大臣、裁判官をはじめ立法、行政、司法の各部に属するすべての職員を含み、かつ、地方公共団体についても、長、議長その他の職員のすべてを含む概念であり、広く国及び地方の公務に従事する者のすべてを指すと解されている。

出典:白書:「目-8」頁5行目

このように国民に公務員を罷免する権利があることを憲法は規定していますので、問題のある国会議員が政党に迷惑をかけたくないからと政党を離党するも国会議員辞職はしないという現状を嘆くのではなく問題のある公務員については罷免という国民に与えられた権利を行使していくことが大切です。

「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う」

安倍総理大臣は1月31日の黒川弘務東京高検検事長の勤務延長の閣議決定は法的に問題ないと発言しました。

検察庁法の解釈変更について菅官房長官は5月19日の記者会見で、国民に周知する必要はなかったとの認識を示しました。
菅官房長官のこの発言について立憲民主党の蓮舫参院議員は質問主意書を提出しました。
立憲民主党の蓮舫参院議員の質問主意書の内容です。
政府は、6月2日に立憲民主党の蓮舫参院議員の質問主意書に対する答弁書を次の通り 閣議決定
閣議決定しました。

憲法第66条3項に「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う」と規定しています。

憲法第41条に「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と規定しています。

憲法第43条に「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と規定しています。

以上をつなぎ合わせて考えると、「国会は、国権の最高機関である」➡「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う」➡「国会は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」、すなわち「内閣は行政権の行使について全国民に対し連帯して責任を負う」ということになります。

内閣法第1条2項にも「内閣は、行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う。」と規定しています。

日本大百科全書に「国会の地位」についての説明があります。

国会は主権を有する国民を代表しその意思を実現する国家機関であり、憲法は「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」(41条)と定めている。
国権の最高機関とは、主権者である国民を直接に代表し、その意思を実現する地位を占めるという意味において政治的に最高であるということであり、唯一の立法機関とは、国会による立法以外の立法は原則として許されず、かつ国会の立法権は完結的なもので、他の機関の参与を必要としないことを意味する。
ただし、憲法は例外として、議院規則の制定権を国会各議院に(58条2項)、最高裁判所規則の制定権を最高裁判所に(77条)認めている。[池田政章]

出典:日本大百科全書の「国会の地位」

「 国会」は、「主権者である国民を直接に代表し、その意思を実現する地位」であることから、「閣議決定は全国民に対して責任を負う」ということになります。

法律違反や国民をないがしろにした内閣の責任は重く許されるものではありません。

下記の画像は、山中理司弁護士のブログに掲載されているものを使わせていただきますが、勤務延長に関する1月31日の閣議書です。

閣議書

内閣総理大臣を罷免するにはどうすればよいでしょうか

安倍総理大臣、菅官房長官、森法務大臣、法務省の辻裕教事務次官、近藤正春内閣法制局長官、人事院幹部、閣僚は法律の正当な解釈を妨げることに一致協力して法律の誠実な執行に反する行為をした責任は重く、公務員として罷免に値すると思います。

ところで内閣総理大臣は、憲法第67条により「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。」とあり、第69条には「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。」と規定されているので、国民は内閣総理大臣を罷免する権利はありません。

下記は俳人の長谷川櫂氏が日本経済新聞のコラム「こころの玉手箱」掲載の抜粋です。
2003年秋に詩人・評論家の大岡信氏と連句「三つ物」を和紙に墨書なさったものとのことです。
「宰相をすげ替へられぬ 国の秋」のように、いつの時代においても国民は政治の世界を憂えたことがあったのではないでしょうか。

連句

内閣総理大臣は国民に対する影響力が大きいにもかかわらず罷免することができないからといって、国民は不満を嘆いてばかりいてはいけません。
国民は内閣総理大臣を罷免することはできませんが、国会議員の資格を罷免することはできます。
内閣総理大臣は国会議員の資格を有していることが条件なので、国会議員の資格を罷免により失うと同時に総理大臣の資格は喪失します。

内閣総理大臣が欠けた場合は、首相官邸ホームページにも記載されていますが、「内閣総理大臣が失格(議員の議席を失う)などの理由によって欠けたときは、内閣は総辞職しなければならない(憲法第70条)。」です。

  ま と め

黒川弘務元東京高検検事長の勤務延長に関連する一連の出来事は、政治家や行政機関により法律の誠実な執行が損なわれることが証明されたと同時に事件の主体が検察庁であったこと、法律の条文内容を無視した法解釈変更をして積極的に動いていたのが法務省の辻裕教事務次官であったこと、菅官房長官の国民を無視した態度を考えると日本は法治国家とは言い難く、このような場合に国民は団結して声を上げていくことが肝要です。

法律は私たちに身近なものです。裁判の判決に限らず法務省の判断も私たちの正当な権利を妨げる解釈が横行して平穏に生活する権利を奪っています。

親子関係の判例等これまでにもいろいろ取り上げてきましたが、無戸籍の子の母親へは、法務省が法令を正しく解釈できないことの一例です。

無戸籍の子を抱えている母親が1日も早く国民としての子の権利が取得できるように、無戸籍の子の母親へを読んでいただければと思っています。